玉川村は福島県中部にある人口約6000人の小さな自治体だ。
この小さな自治体は今、多くのファンを獲得していることで注目されている。
一体、どのような秘密がこの村に隠されているのだろうか。
玉川村とは
玉川村は福島県唯一の空港である福島空港が立地している。
空港は確かに交通機関の窓口であるが、多くの場合、利用者は直接目的地に散ってしまう。シャトルバスや路線などがあればなおさら、空港が立地する自治体に立ち寄ることは多くない。
ところが住民との連携がしっかりなされていない自治体も多い。株式会社ダン計画が近畿経済産業局から委任され2020年にDMO関係団体に向けて実施したアンケートによると、「地域の認知が不足している」の項目において全DMO が「非常に課題」「課題」と回答している。
ユーザーからすれば、場合によってはその空港がどこの自治体にあるのかということすら知らず、また気にしないこともある。
特に安全・安心、安堵といった部分を外国人目線で立てるかどうかは、小さな自治体に関わらず、他の大きな自治体でも課題点として挙げられている。
そのため、そのような自治体では、空港内や空港隣接施設などを重視して空港内で利用を促進することを第一に率先してる傾向がある。
一方で玉川村は、村自体が目的地になってきている。人々は玉川村を目指すために空港を利用したり、あるいはクルマ等を使用してやってくる。
彼らの目的は何なのだろうか。
秘訣はターゲティングとブランディング
玉川村は「日本一の自転車が好きな村」と称している。
自転車ユーザーに非常に優しい自治体であることこそが、自転車好きのユーザーが多数訪れている理由だったのです。
目玉施設としてサイクルヴィレッジたまかわがあり、そこを中心とし、宿泊や道の駅への経済効果の波及も見られる。
この施設には日本最大級のマウンテンバイクのオフロードコースを有しているほか、BMX向け室内施設やスケボーパークのような施設も充実している。
特にマウンテンバイクは国内で本格的に稼働しているコースがあまり多くないこともあり、マウンテンバイク競技者のうちでは有名で、信頼も得ている良質なコースになっている。
通常であれば目的地になりにくい人口6000人ほどの村が、いかにしてこのような観光施策を実現し、人々を呼ぶことができているのだろうか。
よほど産業が発展していたりしない限り、自治体の収入は人口の大小によって決まるところがある。
当然、人が多いほど税収も多くなる。また公共施設やインフラの維持管理についても、基本的には人口が多いほど集中管理や、効率化が行えるため有利に働く。
そのため、人口が少ないほど観光投資額は少なくならざるを得ず、また現在では民間資本の投下も定住・関係人口が多い場所であればあるほど多額になり、集客力の高い大きな施設が作られる傾向がある。
となると元々観光地で有名ではない、人口が少ない自治体が、観光振興するとすればできることはかなり限られるはずである。
玉川村はいかにして人々を呼び寄せたのか。
それは低コストで実現したことはもちろん、ターゲットが明確でマーケティングとしても成功したからだ。
まず最初の目玉となったオフロードマウンテンバイクコースだが、この施設は面積の大きさの割に建設コストは高くない。
というのも森や山をそのまま使う競技であるから、整備に関わるコストはビルや建物を建てるよりもはるかに抑えることができる。
また、この施設の場合、地元の建設業者を使用することができてその点でも経済を回していた。
とはいえ、森林を生かす施設はキャンプ場などをはじめ、多くの自治体で試みられている施策だ。
日本は地勢がほとんど山林であるから、どこでも簡単に思いつく話である。何なら福島でなくても良い話だ。
その点、玉川村はどうしたのか。
玉川村の成功理由は、マーケティングの強さ。
まずターゲット属性が非常に明確であり、「自転車ユーザー」ではなく「マウンテンバイクユーザー」に最初は絞っていたことだ。
ターゲットの細分化を行い、それに刺さる施策を打ち込めた。
サイクリスト全体の数は減っているものの消費額は増え、また若年層ほどユーザーが多く将来性もある。
自転車の施設やコースは非常にたくさんあり、日本ではユーザー数も多い。
一方でマウンテンバイクのコースは多くなく、国内でも限られている。
そしてマウンテンバイクユーザーはその特性からお金を使う人がとても多いという点も刺さっている。
マウンテンバイクを本格的にやりこむためには、コースがある場所まで自転車を持ち込む必要があり、長距離の移動というお金と時間がかかる方法を取らざるを得ない。
日常で近所から自転車を使用して旅をすることが多いロードと異なり、マウンテンバイクは都市部や路上では実現できないコースを用いる必要がある。
その結果、サイクリスト全体ではなく、あくまでマウンテンバイクユーザーを狙い撃ちしたことで、差別化と関係人口の増加を実現した。
自己の特性を生かしたターゲット選定と施策実施によって、多くのユーザーを獲得できた。
遠方ゆえに宿泊や飲食などの地元での消費も増加させることができた。
道の駅のみならず、森の駅というものがあり、自転車ユーザーに目を向けつつ宿泊等も可能だ。
人口が少なくて税収が少ないし元々は観光が盛んな場所でもない。
だから何もできない。ということは無いことを、玉川村は示してくれている。
隣の自治体を見て参考にする時代から、ユーザー目線で「売り込む」時代に変化している。工夫次第では、大都市に負けない戦い方もできる時代だ
以下、参考文献
・ツールドニッポン.サイクリスト国勢調査2021 調査結果レポート.2021-09.13(参照日:2023-12-08)
・Yodge(ヨッジ).yodge tamakawa 森の駅Yodge|福島県玉川村.不明(参照日:2023-12-08)
・玉川村役場.2021年9月広たまかわ.玉川村.2021-03-12 (参照日:2023-12-08)
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