昔から流行っていた関東の温泉地
関東の温泉の歴史は古く、武田信玄の時代にさかのぼることができる宿や、数百年前から湯治場として有名だったという場所も多数存在する。ただしそうした温泉地が観光目的の保養地として成立したのは昭和初期からのことだ。
温泉街が成立した最大の理由は鉄道の発展だった。温泉が有名な土地には国鉄が進出したし、例え鉄道開通が難しく国鉄が目をつけなくても、野心的な私鉄が難工事の末に鉄道を開通するなどした。
数日掛けて山々を超えていく秘境であった温泉地は鉄道の力で1日で現地に着くことができるようになり、それまで湯治や修行、権力者の私的な利用と言った限られた利用から、レジャーへと発展して旅館が多数立ち並ぶことになった。
都内から気軽に立ち寄れる温泉地に多数の宿ができ、駅前には商店街が軒を連ね、その流れは戦後になっても続き、周辺の自治体と比べて税収にも恵まれ、周辺地域のリーダーにもなっていった。
こうした土地の温泉宿は小粒の客よりも、大人数で宿泊する団体社員旅行を重視するようになり、団体固定客を手に入れた旅館は大規模に発展し、60~80年代に経済成長に伴って、巨大化・多機能化していった。
商店街は壊滅してしまった。お土産も娯楽もホテル内で完結することになってしまい、ホテル業界だけが富を得て、源泉権利の無い地元商店は締め出され、駅前はシャッター街になっていった。
そんな旅館も、90年代になると、バブルの崩壊に伴って大打撃を受けた。
しかし旅館が壊滅した根本理由はバブル崩壊ではなく、団体客への甘えと言える。実は1960年代からすでに温泉宿の崩壊は始まりつつあった。モータリゼーション化により、国民はマイカーを手に入れ、高速道路、そしてバイパスへと移動が変化し、国道と国鉄の旅客割合は毎年右肩下がりになっていった。
その結果、個人旅行需要に転換するため奔走した観光地は現在も残り、団体客に頼って有効な対策を取らなかった観光地は大きな打撃を受けることとなった。
こうした温泉地は鉄道を重視していたため、ホテルは大きさに比べて駐車場が狭く、団体客向けの設備を優先的に充実させているのが、かつての大規模温泉旅館(ホテル)の特徴である。
それでも歴史が長い宿はお金を持っている固定客等も存続し、生き延びたところも少なくなかったが、歴史が浅い新興の大規模ホテルは軒並み潰れることになった。
JR(旧国鉄)は自ら多角化し、ホテル、レンタカー、不動産、バス事業も連動させ充実させるなどして顧客の囲い込みを行っていくと、JR路線の末端の終着駅や私鉄が中心となった主に山間川沿いの温泉地はさらに打撃を受けることになった。
結果的に、地元商店街のみならず大型ホテルも衰退して廃墟と化しているところも多い。
残ったホテルはホテル内での宿泊・飲食・購買が基本の大規模ホテルのみで、流行りの街歩きや周遊観光といったものに消極的な姿勢を取らざるを得ない業態となっている例も少なくない。
近郊型温泉地の特徴
自治体としての領域が狭く、かつ温泉街が中心となった独立した地域が特徴としてある。
一部、合併した町もあるが、大抵の場合は都市部から離れたところで独自の施策を展開している。
例えば温泉地として著名な箱根町、日光市、草津町、みなかみ町などが該当するが、渋川市と合併した伊香保町も現在でもキャンペーンPRなどの面で旧伊香保町内で独自に動くことも少なくない。
これら自治体は観光で税収が成り立っていたので、合併や生き残りを考えた施策を考える必要が薄く、ただ観光特化に専業していればよかった。観光が衰退したと言っても周辺自治体と比べたら有利な観光資源があり、依然として自治体は企業誘致や人口誘致よりも、観光を押し出す想いが強いのも特徴だ。
温泉自治体の課題
一般的な自治体の課題は人口減少と税収減少で、その解決の道筋として企業誘致を掲げるところが多い。
一方で観光を推奨する自治体は小規模であることも多い。
このような自治体が目指すものとは、周遊観光の復活(新興)で経済の流れを良くしたい、という点もあるが、ホテル側からすると囲い込みを行いたく、また場合によってはそのホテル側が力を持っている場合もあり、最終的に自治体と地元業者の話がかみ合わないこともある。
こうして、向いている方向は同じでもプレイヤー個々に思惑が異なる場合もあるので注意が必要だ。
一方で町として成功している温泉自治体というのは意見を取りまとめて一致団結していることが多く見受けられる。
例としては草津だ。
草津は官民一体となり湯畑や足湯など、街全体が周遊を促す仕組みを整えることが出来ている。
鉄道の撤退や交通の流れの変更などの、難しい問題に直面している自治体も少なくないが、今となっては時代が変わったことを踏まえ、個人旅行やマイカーあるいはインバウンドなど新しい潮流をいかに獲得できるかが鍵となるだろう。
いかがでしたでしょうか。
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