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鎌倉市が行ったオーバーツーリズムとの上手い付き合い方とは?

年間の延べ入込観光客数2000万人。
京都市の観光密度の10倍にもなる超過密観光地が関東にあることをご存じだろうか。

その名は鎌倉市。
海も山も歴史もある、観光コンテンツがこれでもかというほどある有名観光地の鎌倉。しかしあまりに人気がありすぎて少々困ったことにもなっている。

今回は鎌倉市市民防災部観光課の担当者に、観光の取り組みについて聞いた。

目次

人気観光地とオーバーツーリズム

観光客は多ければ多いほど利益になって良さそう、うれしい悲鳴だ。それくらいは我慢してもおつりがくる。

そう思う人も多いかもしれないが、地元住民は生活道路が埋まってクルマが使用できない。現役の学校に観光客が溢れて歩道が塞がり、生徒たちは車道を歩いて登校する。
地元住民のほうが気を使って生活しなければならない状態と言えば、その苦労も少しは分かるかもしれない。

こういう状況から鎌倉市は全国でも珍しい「オーバーツーリズム」対策専門の担当がいる。市観光課のオーバーツーリズム担当では鎌倉観光の今の状況をどう見ているのだろうか。また、将来展望はどのようなものがあるのか。

鎌倉観光に起きた問題

混雑する観光スポット

鎌倉市の面積は約40km²ほど。これでも全国の他の市と比べても決して広いほうとは言えないが、そのほとんどが山と緑地であるため、観光地は集中しがちだ。

実際の鎌倉市の観光中心地は東京ディズニーリゾートよりも狭く、そこに大量の人数が集中すれば都市機能がマヒしないわけがない。

小町通や鶴岡八幡宮といった有名観光地だけでなく、鎌倉高校前など観光施設じゃないどころか周囲に商店が無いような住宅地、山奥の小さい寺社にも大挙して人が押し寄せている。
歴史的な出来事の舞台になっているだけでなくドラマや映画、アニメといった有名作品の舞台になり、その作品数は数えきれないほどで、鎌倉はまさに聖地の集合体といった状況だ。

歴史的、あるいは近年の作品の舞台となった土地の多くが集中していて、人々はその場所めがけて殺到し、特定の地点が常に混んでる状態にある。
数百年前の歴史的舞台となった土地では、日本らしさを求めて欧米系の観光客が多く、漫画やアニメの舞台となっている場所は、アジア圏の外国人の観光客が多いという。

国内旅行者と交通インフラの利便性

さらにそれに負けないくらい、日本人の観光客も来訪している。
鎌倉は東京からも近く、日帰り観光もできて、駅前徒歩圏内に主要観光地が集中しているということもあり、日本人も気軽に行きやすいというのも魅力となっている。
しかし日帰りと気軽さは、ときにまちへの経済効果という点では不利になりかねない。宿泊者が少ないことで、宿泊に関わる料金はもちろん、滞在時間が短くなったり、混雑により目的地を減らすなどして1人あたりの観光消費額・経済効果は少なくなってしまいがち。

結果として人数は多いが収入に大きく結びつかない。ということが起きる。

オーバーツーリズムをどう捉えるか

観光公害やオーバーツーリズムという言葉はここ5年くらいで多く聞かれるようになった。その原因のほとんどは、まちの受け入れキャパシティを超えて来訪者がやってくる状態による。

かといって来訪者が多く訪れるということは、そのまちに魅力を感じてもらっている証拠でもあり、決して来訪者に「来ないでほしい」わけではない。むしろもっと鎌倉に来て見て楽しんでもらいたいと思っている。
市の担当者も「鎌倉に来てもらって、是非、鎌倉のファンになっていただきたい!!」と話している。

課題は多いが、観光客を制限することは決してなく、もっと来てほしい。
ではどのようにオーバーツーリズムを解消するのか。また観光客はどのようにして訪れると鎌倉にとってうれしいのか。

鎌倉にやさしい観光とは何か

オーバーツーリズムというが、これが起こっている場所は市内でも限られている。
逆に言えば、混雑する場所や時間を避けることで解消することができる。

鎌倉市では、混雑状況のデータをヒートマップ形式で公開している。

https://www.konzatsu-kamakura.jp/

鎌倉観光初見の人でも、これを見れば場所と時間をどうずらすか検討できるようになっている。
観光する側としても、わざわざ歩けないほど混んでいる場所に行きたいと思わないだろう。

過去のデータから予測を載せているので、行きたい曜日や時間帯選びの参考になる。
市の観光課としても、このシステムを活用し、混雑している時間や場所をずらして観光することをお勧めしている。

市の担当者は「混雑可視化マップを見て、ゆっくり鎌倉で過ごしてもらいたい。身体全体で鎌倉の魅力を感じてほしい」と話す。

マナーを守った観光を

当たり前のことかもしれない。しかし観光地ともなるとあたかも「観光地だから観光客が優先」「自分はお客さんだから」と、気が付かないうちに観光客側が幅を利かせてしまうことがある。
鎌倉もしかり、観光地である以前に住宅地であることも忘れてはいけない。

市の担当者は「歴史や文化をより感じてもらうためにも、マナーやルールを守ってほしい」と話す。

これも混雑可視化マップを事前に確認することで、道をふさいだりしてしまう可能性を減らすことにも繋がる。
ごみのポイ捨てやマナーについても、日本人向けはもちろん、4カ国語と合わせさらにピクトグラムを掲示したり、外国人にも気が付いてもらえるような仕組みを地域ぐるみで行っている。

鎌倉観光の未来

市の担当者によると「鎌倉市はマス(メディア)の影響もあり、観光客の誘致については特別な施策を打たなくても人が来る状態」と話す。
大河ドラマの舞台となった令和4年以外でも、歴史的な舞台に何度もなっている上に歌、ドラマ、映画、漫画などのサブカルチャーの分野でも鎌倉は国内・国外問わず常にファンを作り続けている。
さらにリピーターも多く、観光客数自体に心配はいらない状態だ。

観光コンテンツも年々充実しており、宿泊施設も新規に増えていることもあり、1人あたりの平均観光消費額も回復基調だ。
特に消費額が大きかった大河ドラマの舞台となった令和4年度では、コロナ禍の中であっても宿泊客1人あたりでは24,678円を記録した。

鎌倉市では、宿泊施設の充実を促したり観光導線の構築を行っているものの、道を建設したり大きな建物を建設したりというハード面の施策は建設できるスペースが限られることや歴史的遺産等を保護しなくてはならいないという古都特有の課題があり、改善することが難しいことから現状あるものに小さな工夫を加えて最適化する方向で動いている。

鎌倉の街中は確かに駅前徒歩圏内に小町通や大仏、江ノ電、鶴岡八幡宮が集中していているが、旅行者が滞留しがちだ。
しかし、そこ以外にも少し足を伸ばすだけで多数の観光コンテンツがあるし、時間を少しずらせば小町通など駅前でも快適に旅行ができる。

混雑ヒートマップを活用し、時間と場所を少しずらすだけで、観光客自身にも大きなメリットを得られる。
お互いのちょっとした気遣いで、鎌倉市もより発展し、旅行者もより楽しめて満足できる。

鎌倉市と長く付き合ってファンになってほしい

一般的に宿泊の有無で1人あたりの観光収入は大きく異なる。その差は一般的に4倍ほども異なる。

鎌倉市は古くから通過型、あるいは日帰り観光が中心であったこともあり、宿泊キャパシティはあまり大きくない。

特に日本人観光客は神奈川の周辺の他の観光地と組み合わせるなどして、通過したり日帰りする場合がほとんど。だが最近は民泊等の施設や利用者も増えているという。
市担当者は「宿泊をしていただけると、滞在時間が伸び、朝や夜など日帰りでは味わえない鎌倉も知ってもらえるきっかけになる」と話した。

一方で日帰り観光客についても「日帰り観光をして、ぜひリピーターになってほしい、鎌倉のファンになってもらいたい」と、日帰り・滞在問わず鎌倉のファンが増えると嬉しいと話した。
ほとんど日帰り客ということもあり、リピーターになってもらうことに重点を置いていて、鎌倉市では旅後や一度鎌倉に訪れたことがある人向けにもPRを行うなどしている。
令和4年度の市が実施したアンケートでは鎌倉市に観光に訪れた日本人のうち、11回以上訪れたことがある人が最も多く34.9%を占めているなど、リピーターの比率が非常に高くなっている。

また旅後施策の一環としてふるさと納税の訴求も行っている。
鎌倉では、観光が終わったあとにふるさと納税などを通してファンになって繋がってもらえるような施策を打ち出している。

観光地となっている自治体はあっても、自治体は観光施設ではない。住民がいる。
行政は観光振興と共に、地元住民への快適な環境を提供することも責務だから、どうすればよいか悩んでしまうことも多いだろう。
鎌倉市の例では、大きな税金を投入したり、観光客の流入制限をしたりすることはしていない。

お互いのちょっとした気遣いを促し、それができる場やシステムを作れば、観光振興と住環境確保の両取りができる可能性を示している。

以下、取材にご協力いただいた自治体さまHP/情報
鎌倉市ホームページ
広報かまくら


いかがでしたでしょうか。
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