納税者にとって、ふるさと納税は有用な制度で、利用者の満足度は比較的高い。
iDecoやNISAなどと異なり、リスクもなく安心して利用でき、メリットしかないように思える。
だが自治体側としてはどうだろうか。
自治体同士の競争化
ふるさと納税は、過去の競争激化から過度なプロモーションに走る自治体も多くあった。
そこで2023年10月から「5割ルール」が適用されたことは記憶に新しい。
5割ルールとは「自治体が寄付を募るのに使う経費を寄付額の5割以下とする基準を厳格化」する制度である。
このように厳格化されたという背景には、5割を超えてプロモーションを掛けていた自治体があったことによる。
自治体個々で見てみれば、極論言えば経費がふるさと納税額の99%でも、仮に全部が自治体外からの寄付であったなら1%分のプラス税収となる。だが日本国内全体で考えてみると、仮に全自治体が約5割で攻めた場合、税収の約50%が納税されず民間に流れるともいえる。
結局大都市にお金が流れる?
よくふるさと納税が批判されている材料として「結局東京にカネが集まる」ということが挙げられる。
経費の多くはプロモーションや販促、送料、それらを管理する事務コストで、これらを担う主な企業は都市部に集中しているためだ。
朝日新聞によると2021年度のふるさと納税額上位20自治体のうち、過半数である13自治体が5割を超えていたということも明らかになっている。よほど特産品などに有利な条件が無い限り、ふるさと納税を有利に戦うには、相当額の経費が必要不可欠となっている。多くの成功している自治体は、5割近い経費を支払っており、輸送コストだけでも何割か掛かっている。
となると50%近い税金が納税されず民間に流れているとも言えて、さらにそれを受け取っているのは大都市の大企業らとなる。
ふるさと納税が廃止される未来は?
現時点では、ルールは毎年のように微調整されているものの、制度自体の廃止が検討されている様子は無い。
一方で日本国内全体で考えた場合、納税額の減少というのは制度の性質上起きている。
地方自治体がふるさと納税を頑張れば頑張るだけ、日本全体で考えると地方自治体の減収になるというのは、健全とは言い難い。また自治体としても、せっかく頑張ってふるさと納税を広めても、5割近い経費が引かれてから歳入になるのはあまり歓迎したくないことだろう。
できれば、経費は削りたいと考えるのが筋だ。ではどうするか。
個々の自治体として、取り組める手段はいくつかある
1.輸送コストの削減
現在は主戦場がポータルサイト、つまりECであるため、返礼品の輸送が必須で、そのコストの負担がとても大きくなっている。
特に北海道や離島などでは、輸送コストが高くなるということもあり、都市部以外の税収を増やす目的もあるふるさと納税にとっては不都合だ。
これを解決するには、体験型や純粋な寄付、電子的な返礼品、現地での手渡しなど、納税者自らが足を運んでもらうか、あるいは物品を輸送しない返礼品の開発はとても大きなメリットを得られる。
オンライン上での体験や電子データのやり取りなどは、遠隔地でも宣伝・受け取りが可能である。
ただオンライン・オフライン問わず体験型は納税者と直接対話する機会があるため、自治体の魅力を伝える場としても機能している。
2.できる限りの効率化と民間との連携
ふるさと納税は自治体が行っているというだけで、消費者目線で考えれば他のECサイトと変わりなく、ユーザーの多くは通常の購買と変わらない思考で動いている。それゆえ、通常の企業が行うような販売プロモーションやEC運用ノウハウが効果を発揮する面もあり、私企業向けのマーケティングコンサルなどに依頼する自治体もある。
しかし、そのような競争の激しい部分で戦ったり、施策を丸投げする前に自治体のみでやれることはある。
・京丹後市.ふるさと納税3.0.京丹後市.不明:更新日2023-08-30.(参照日:2023-12-08)
京丹後市の例では、返礼品開発をクラウドファンディング型のふるさと納税で進めるなど、他と差別化した施策を独自に行っている。
自分たちは何が出来て、何ができないのかを整理したうえで、最低限有用なツールを選択して使用する。
地元の事業者の新興と協力を得て、事業者と自治体双方にとってメリットがある方法を提示することで、民間側からも宣伝や開発などに協力してもらえる余地も生まれる。もし今ある製品がなくても、開発そのものを返礼品にすることもできるわけだ。
ふるさと納税は、自治体の魅力を示し、ファンをつけていく上でも有用な税施策だ。
上手く活用することで、納税額のみならず魅力が伝わったり観光収入など他の経済効果も生まれる可能性がある。
3.日本の市区町村はとにかくツライ!?
ふるさと納税というものは日本では国民(当該納税者)の9割以上が認知している大変浸透している制度だ。一定の成功をしていることは間違いないが、海外ではふるさと納税と同じ制度は見当たらないのはなぜか。その理由は、日本の税制の特殊さにあるといえるのではないだろうか。
ふるさと納税は日本の独自政策?
ふるさと納税は日本のユニークな制度だ。
ではなぜ海外はふるさと納税のような制度がないのか。
日本は諸外国に比べて市区町村単位の地方自治体の自主財源の割合がとても大きい。簡単に言えば「地方自治体が自分でなんとかしないとならない」わけだ。
諸外国のうち、州制度がある国々では国税・州税・地方自治体税と大きな割合を持つ自治体が3種類あるため、自然と市町村相当の地方自治体への税収は少なくなる。
一方で日本と同じく州制度がない国ではどうか。そのような国々でも国税の割合が多い。半分近くが最小単位である市区町村に振り分けられている日本は珍しい。
諸外国では、国税あるいは州税で一手に集めたのち、地方交付を行い分配するのが主流だが、日本では市区町村の自主財源がとても多い。それゆえ、日本では古くから「地方公共団体は自主財源でなんとかするのが基本」という風潮があり、あくまで交付金は補助であるという認識だ。
ふるさと納税をどう捉えるか
ふるさと納税といえば、一昔前まで「稼ぐこと」を最優先した結果、自分たちの産物でもない品を「返礼品」に設定して問題になったことがある。
本来の制度の意義でいえば「市民の自発による、好きな自治体を応援するための寄付」であるが、実際のところは熾烈な営業合戦があり、自治体が利益増大を目指す私企業のようにプロダクトのブランディングやマーケティングを積極的に行っている。
原則として市区町村が独自に収入を確保しないとならない。という文化から良くも悪くも市区町村単位で相当な努力が必要で、それはふるさと納税の制度にも反映されていてもおかしくない。市民サイドも寄付ではなく単に「お得さ」を求めた「購入」の気持ちが強く、制度利用者の大半は自治体を応援するという気持ちなどなく、返礼品のみを見て、返礼品の良し悪しで選択している。
結果的にふるさと納税は「自治体のEC店舗」とか「無駄が多い制度」などと揶揄する声もある。
制度本来の趣旨を実現する流れも
ふるさと納税の本来の趣旨を実現するなら、自治体のファンを増やし、自治体起点で納税を決めてもらうことが大事になってくる。
「おいしいカニが欲しいからカニをポータルサイトで検索する」状態から「この自治体を応援したいから、この自治体の返礼品を検索する」という状態になるのが望ましいはずだ。では本来の「寄付」に近づけるためにはどうすればよいのか。
1、ガバメントクラウドファンディングという考え方
ふるさと納税ポータルサイトや自治体独自で実施しており、最近注目されているこのサービスは、返礼品目的ではなく自治体を起点としたふるさと納税の考え方をしているのが特徴だ。
自治体が行いたい企画を提示し、その企画にお金を投じたいという人を集める仕組みで、自治体のファンを増やすことに繋がる。
2、現地型ふるさと納税という考え方
一般的なポータルサイトでは、ユーザーはお得さを求めてまるで通常のECサイトで購入するように返礼品を選んでいる。そのため、どの自治体が出しているかすら知らないまま選択することもあり得るほど。返礼品(商品)ありきなので、返礼品の内容が変わったり劣化すればリピーターになることはない。
一方で現地でのみ使用できるタイプの返礼品やふるさと納税であれば、少なくとも現地に訪れた人が利用するため、自治体は品ではなく、自治体そのもののファンになってもらうよう働きかけることができる。
この方法であれば、リピーターとして再び旅行に来てもらえる確率も上げることができ、自治体全体で見れば宣伝のコスパが良くなる。
※弊社サービス「ココふる」も現地ふるさと納税型
3、ストーリー性のある返礼品開発
日用品や高級特産物など、人気の返礼品ラインナップは確かに集客力があるがその場限りであることがほとんどだ。一方で長期的に見ればやはり自治体そのもののファンとなり副次的な経済効果を生むことが大事になる。
アニメやドラマなどの作品の聖地化や1年間を通して地元の学校の授業の一環で返礼品を開発したり、現地の住民らと交わるあるいはお祭りなどへの招待など、その自治体でないとできないモノや品を作り出すことも、他との差別化やファン獲得になるかもしれない。
まとめ
ふるさと納税は地方自治体にとって「無差別級の試合」である。
どんな規模や環境を持つ自治体も、同じフィールドで同じ条件で直接戦わねばならない場であり、またどんな規模が小さい自治体であっても、巨大な税収源にすることもできてしまう。日本全体で見れば納税総額は変わらないため、誰かが納税先を変えれば当然、本来得られるはずの税収を失う自治体も出てくる。
であれば自治体は問答無用で税収の奪い合いに参加させられているようなもので、どこの自治体でも無関係では居られない。人気商品(返礼品)を並べるのはもちろん有効な手であるし、それも自治体の魅力なのは違いないが、どこでもふるさと納税がやりやすい環境に恵まれているわけではない。
ふるさと納税単体ではなく、自治体全体として理に適うよう、それぞれに合ったふるさと納税戦略を考えることは、今後より一層大事になってくるかもしれない。
以下、参考文献
・京丹後市.ふるさと納税3.0.京丹後市.不明:更新日2023-08-30.(参照日:2023-12-08)
・Manegy.2023年10月からふるさと納税のルールが改正。返礼品の質・量が落ちる可能性も.manegy.2023-10-06(参照日:2023-12-08)
・NNN.カーアクションやナパーム爆破も体験 ふるさと納税で「爆破ツアー」? 観光の新たな起爆剤に 静岡・裾野市.NNN/Yahooニュース.2023-11-27.(参照日:2023-12-08)
・財務総合政策研究所.第2章 地方税制の国際比較..2002-06(参照日:2023-12-08)
・国立国会図書館/ 財政金融課(松浦茂).米英独仏における国と地方の財政関係..2008-08(参照日:2023-12-08)
・法政大学経営学部教授主席研究員平田 英明.ふるさと納税の功罪―非効率な制度設計の「被害者」は誰か .東京財団政策研究所.2020-02(参照日:2023-12-08)
・国立国会図書館 調査及び立法考査局財政金融課 竹前希美.主要国における地方財源とその仕組み..2013-03-13(参照日:2023-12-08)
いかがでしたでしょうか。
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