アニメ聖地巡礼の落とし穴、町おこしの未来

自治体向け情報_聖地巡礼

自治体をより魅力的に見せ、来訪者を増やすにはどうしたらよいか。こう聞くと一昔前は「聖地化」や「ゆるキャラ」と言った声が聞こえた。

そうやって一発逆転を狙ってかつて流行っていたのがキャラクター採用(ゆるキャラ募集)と、アニメ聖地化である。
しかし、今となってはどちらも全盛期より消極的になっている。

それはどうしてか、そしてそれらはまだ活用をする手はあるのだろうか。

目次

聖地とは

現代で聖地といえば、ドラマや映画、アニメや漫画などの作品の舞台となった土地という意味で有名になっている。

その始まりは2007年、「らき☆すた」の聖地となっている埼玉県の鷲宮神社周辺といわれている。

それは偶然に始まったものの、その後は女性向けのゲーム「刀剣乱舞」や音楽ゲーム・アニメ「ラブライブ」などが一世を風靡して聖地化され多くの観光客を呼び、鎌倉市では現代でも何もない日でもスラムダンクの舞台を目当てに、日本のみならず海外からも人が押し寄せている。そうした流れから、2010年代後半からは最初から町おこしの目的でアニメ制作を誘致するなどの事例も現れ始めた。

2010年代は、聖地ブーム、ゆるキャラブームなどでキャラクターから始まる町の活性化が話題となり、2015年前後には自治体や企業主導で地元の集客に活用しようと、いわば商業化狙いに転じていった。

作品類による町おこしがにわかに流行ったのは、大都市や有名観光地でもない土地であっても、一発逆転で有名観光地化して大いに儲かる結果が出ていたことによる。

草津などの有名観光地や、大阪のような大都市でなくても人を呼び寄せることができる。

実際に埼玉県の鷲宮は有名な神社ではあっても、決して年中多くの人が訪れる有名な観光地というほどではなかった。

観光としてはそこまで有名ではない自治体が、経済活性化や人口増加を目論み、アニメなどを利用しようとする流れになるのは、当然といえた。

(引用元:「スラムダンク」の踏切 神奈川県鎌倉市の七里ヶ浜周辺 江ノ電『鎌倉高校前駅』)
(引用元:「夏色キセキ」の舞台 静岡県下田市のペリーロード)

失敗のリスク

2000年代後半では、アニメによる町おこしがブームとなっていて、自治体や担当者によっては地元が提案すれば通るという状況にあった。

しかし2010年代の中盤の時点では、アニメによる町おこしに疑問を投げかける、あるいは制止する動きが活発化した。

しかもそれはアニメの市場自体毎年増加傾向にあり、アニメの聖地化による収益がより増大し、ラブライブ(サンシャイン=沼津 2017年)などの大成功が相次いでいた中の出来事である。

その理由は2015年前後から聖地化の成功と同時に、失敗によるリスクも注目されるようになったからだ。

では自治体が負う失敗リスクとは具体的になにかというと、一番はイメージの失墜である。

例えば、アニメ原作の人気はあるがアニメの人気が出なかった、表現や内容に問題がある事例(卑猥な表現や町のイメージを失墜する言動など)、作品や作者が炎上してしまうパターン(集金目当てや自治体と制作会社の癒着がばれてしまうなど)、あるいはそもそもアニメ自体の人気が全くでなかった場合などである。

本来、アニメの人気が出ないこと自体は、自治体に金銭的なデメリットはないはずである。

しかし、アニメの人気の無さ=つまらない土地というレッテルが貼られたり、あるいはアニメ聖地化のために必須な自治体や現地の献身的な協力そのものが「痛い行為(いわゆるダサいと思われる行為)」と思われてしまうことで、土地の魅力を下げてしまう場合もあるのだ。

なぜ失敗するのか

そもそもアニメの町おこしの成功を分けるのはやはり「アニメが成功するか否か」である。

そして大事なのは「自治体側の努力ではアニメの成功と失敗の運命を決めることはできない」という点だ。

つまりアニメが成功すればアニメでの町おこしも成功しやすい。という至極当たり前な結果になっている。

しかし、アニメがどうしたら成功するか、というのは統計もなければ決まった方法というものもない。著名な続編やリメイク、あるいは大金を掛けたプロジェクトならいざ知らず、予算がそこまで多くない自治体主導の新規の作品がヒットするかは運と言っていい。

成功する方法があったり、特定のマーケティングを行えば成功するのであれば、どこもやっているはずだ。少なくとも失敗するつもりで最低でも数千万円から数億円の製作費となるアニメを作ったり、それに投資する人はいないだろう。

アメリカのA級アニメ作品はほぼ成功している。またその成功する理由も存在する。

アメリカが海外にも発信する作品は「すでに成功している作品を継続している(スポンジボブなど)」あるいは「大金を掛けて同じテイストで作品を作る(ディズニーピクサー系など)」と、つまり儲かることを前提で制作している。

一方で日本の場合、アニメスタジオ(制作)自体は寡占されているが、原作や元ネタは少し前まで無名だった作者の小説作品や、あるいは流行りの設定や内容からあえて遠ざけた作品も盛んに制作されている。よく言えばイノベーティブな環境にある。

そして日本のテレビアニメ制作の回転率も高い。アニメは子供が見るもの、とターゲットを子供に絞っているアメリカと異なり、大衆娯楽となっている。

このことから、日本のアニメは作品数が膨大であり、その中で成功するかどうかは賭けの要素が高い。

さらに既存の有名な作品の設定を変えるわけにもいかず、自治体が商業目的で制作する場合は、新規のキャラクターやストーリーにせざるを得ないことが多くよりヒットさせるには難易度が高い。

町おこしアニメの成功率の低さ

2000年代ごろまで、アニメというのは「人気がある作品がアニメ化される」というものだった。しかし、アニメの市場規模が大きくなると、今度は「アニメ化を行う前提の漫画や小説が生まれる」という逆の流れも出てきた。

アニメの回転率が上がり、売れている作品のアニメ化だけでは足りなくなり、業界ではアニメの題材となる作品を多く求め始めた時代だった。

「らき☆すた」のような4コマ漫画作品からアニメが作られるようになり、さらには元ネタがなくてもアニメを制作する潮流も現れた。この流れに町おこしをするためにアニメを利用しようとした勢力の思惑が合致したのだ。

しかし、このような「集客のためのアニメ制作」は多くが失敗することになった。

実際のところ、自治体の町おこしのために作られたアニメが失敗したのではなく、アニメの作品数が増大する上で、母数が増えたために失敗するアニメが多数産まれる時代だったため、町おこし失敗の事例も増えたとも言える。

もちろん成功する事例もあったが、失敗するとその土地の魅力も下がるという爆弾を抱えたいわば「賭け」を自治体がおいそれと行うことはできない。結果的に現在では自治体が町おこしをするために新規のアニメを作るという例は、減ってきている。

では自治体はどうすればよいのだろうか?

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