洞爺湖のオススメのレストランといえば、レストラン望羊蹄の名前が必ず挙がります。
昭和21年(1946年)7月に洞爺湖で創業してから、2024年で78年目を迎える洞爺湖の老舗中の老舗です。
出されるメニューは、ハンバーグ、ポークチャップ、スパゲッティ・ナポリタン、オムライス、コーヒーなどを始めとするオーセンティック(正統派)な洋食の数々。
こちらを目当てに、地元のお客さんや著名な芸能人、日本人観光客だけでなく、中国や台湾、香港、韓国、タイなどなど、外国からもお客さんが今日も訪れています。
入ってみるとわかるのですが、望羊蹄の魅力は美味しいご飯だけではありません。「望羊蹄に来たら、最高の時間を過ごしてほしい」というお店側の思いやりの心を感じられるのです。
長年続く望羊蹄の人気の秘密は、「思いやりの心」だと思うのですが、なぜここまでできるのでしょうか?
2代目オーナーの小西悦子さんにお話を伺うと、「創業者の小西さんご両親の思いやりの歴史を2代目の小西悦子さんが大切に受け継いで守っているから」という理由が見えてきました。
洞爺湖の老舗が大事にしてきた「味」と「人」への思いやりを紹介します。
1.洞爺湖温泉街の中心にあるレストラン望羊蹄
望羊蹄は、洞爺湖温泉街の中心地にあります。店名の「レストラン望羊蹄」は、羊蹄山を望むところに建てられたことが店名の由来です。
今でこそ道路の向かいに建物ができたり、木が立っていて、お店から羊蹄山はなかなか見えません。
しかし、2代目の小西さん曰く、1946年の創業当時はあたりに何もありませんでした。お店から洞爺湖と羊蹄山が望めて、綺麗な景色だったそうです。
お店から見えづらくなりましたが、小西さんのお話では、お店の近くにある望羊蹄の第一駐車場から今も羊蹄山を眺められます。お店のすぐそばなので、お店に行く前に立ち寄って眺めてみるのもオススメです。
お店に入ると、深みのある茶色を基調とした店内がお客さんを出迎えます。
望羊蹄のすごいところは、昭和21年(1946年)の開店当時から今に至るまでの調度品が残されていて、思い出が詰まっていることです。
終戦の翌年に開業して物資不足だったので、自分達で白樺を切って作ったテーブルや椅子。昭和27年(1952年)の改築時に増やした部分と創業時からある部分の建築。
有名な画家さんから頂いたり、購入した絵画。お店のお客さんだった宮大工さんに手斧で作ってもらったもの。
最近だと、2014年に放映された『天体(そら)のメソッド』というアニメがあるのですが、洞爺湖が舞台で望羊蹄をモデルにしたお店が出てきます。
クリアファイルも大事に保管されており、今もアニメファンの方に渡しているそうです。
今年で創業78年目になりますが、望羊蹄に来店した一人一人のお客さんとの思い出を大切にしているのが特長です。
2.望羊蹄の名物メニューであるハンバーグステーキ、ポークチャップ
望羊蹄は、オーセンティック(正統派)な洋食のお店です。さまざまな料理が美味しいと評判なのですが、特に代表的なメニューは「ハンバーグステーキ」と「ポークチャップ」です。
どのメニューも美味しいと評判ですが、今回は人気の「ハンバーグステーキ」と「ポークチャップ」を食べてみました。
「ハンバーグステーキ」は看板メニューであり、150グラム、200グラム、300グラム、400グラムの4つから選べます。ふつうのお店なら200グラムを選ぶ人も多いですが、300グラムや400グラムを選ぶ人も多いそうです。
熱々の鉄板で出され、美味しそうに煙が立ち上っています。
ナイフとフォークで切り分けてみると、柔らかいパティで、断面から肉汁がジュワッと染み出ているのがわかりました。
これをオレンジ色のデミグラスソースと絡めて口に運んでみると、さすがの美味しさ!
デミグラスソースは甘めながらトマトの酸味が尾を引きます。ハンバーグの肉汁の旨味が舌に残り、非常に良い組み合わせでした。
ソースが甘めなのは、甘めの味付けを好む北海道の人に長らく愛されてきた味だからでしょうか。
道外の旅行者は甘いと感じるかもしれませんが、北海道の味付けを洋食で感じられるのが嬉しいところです。
「ポークチャップ」も看板メニューであり、ポークチャップのソースはハンバーグと同じものを使っています。オーナーの小西さんによると、お店に来られる男性のお客さんはハンバーグよりもポークチャップを好む人が多いとのことでした。
実際に食べてみると、ポークチャップのほうがお肉の味がさっぱりしていて、甘味と酸味のあるデミグラスソースによく合います。
たしかに、男性はポークチャップのほうが好きかもしれません。
お店の味付けは、食事を提供し始めた初期は外国人向けの味付けだったのですが、日本人のお客さんが多いので、徐々に日本人に喜ばれる味へ変えていったそうです。
望羊蹄のお店の味付けを守るため、オーナーである小西さんが82歳になった今も確認されています。お店は3代目の息子さんが継がれましたが、味付けの確認は今も小西さんの役目です。
創業者のお父さんから40歳の時にお店を引き継いだので、味を見るために風邪に気をつけたり、お酒も飲みすぎず、タバコもやらないように守ってきたそうです。
それだけでありません。他にも小西さんは味がブレないようにする工夫をされています。
望羊蹄の料理は厨房でシェフが作っているのですが、オーナーの小西さんは時々お客さんが来たように装って、抜き打ちで注文をするそうです。
「私が注文したと思うと、作るシェフも緊張したり、普段より力を入れて作ってしまうからかもしれないでしょう?だから、ときどき黙って注文して食べてみるんです」
まるで企業のミステリーショッパー(覆面調査)の手法です。味を守り続けて、お客さんに喜んでもらう工夫を、小西さんは自分で考えて実行されていました。
3.食後のコーヒーは俳優の高倉健さんも1ヶ月間通って飲んだ味
望羊蹄といえば、料理も美味しいですが、コーヒーも美味しいです。そもそも望羊蹄は創業時に喫茶店として始められました。
なので、ハンバーグステーキやポークチャップよりも前にあったメニューが、コーヒーなんです。
望羊蹄のコーヒーは、二つの会社で焙煎されたコーヒー豆を使っています。東京で1927年に創業したチモトコーヒーと函館にある1932年に創業した珈琲焙煎工房 函館美鈴を半分ずつの割合で使っているそうです。
取り寄せたコーヒー豆は、注文が入ったら厨房で豆から挽いて、丁寧に淹れられます。
コーヒーを飲んでみると、深煎りながら、苦味が少なく、スッと美味しく飲めました。
望羊蹄の地元のお客さんは、ここのコーヒーを目当てに、毎日通ってくる人もいます。取材をした時も、95歳の常連のお客さんがカウンターに座り、美味しそうに飲まれていました。
こちらの望羊蹄のコーヒーは、俳優の高倉健さんも飲んでいたそうです。1956年に公開された映画のロケ地が洞爺湖で、デビュー直後の無名だった高倉健さんも出演していました。
映画ロケの滞在期間が1ヶ月と長かったので、コーヒー好きだった高倉健さんは毎日のように望羊蹄に通い、コーヒーを飲んでいたそうです。
それだけでなく、高倉健さんは2年後の1958年にも東京から洞爺湖の望羊蹄へプライベートで訪れています。
高倉健さんもまた、望羊蹄の思いやりある接客に惹かれた一人だったことがうかがえました。
4.洞爺湖へ来る人はなぜ望羊蹄に惹かれるのか
望羊蹄は、昔も今も多くのお客さんから好かれているお店です。味もさることながら、接客もいいと評判。
インタビューしている最中も、2代目オーナーの小西悦子さんは店内に目を配らせていたのが非常に印象的でした。「あそこの外国人の方はお会計の場所に迷っているようだから案内してあげて」と従業員に指示したり、95歳の常連客の方が来たら「来てくれてありがとう。最近どうだった?」と声をかけて、気遣いを欠かしません。
だから、望羊蹄に来たお客さんは、温かい気持ちになって、美味しい食事を楽しめるのでしょう。
では、お店にあふれる気遣いの心はどこから来るのでしょうか?
2024年で82歳になられる2代目のオーナーである小西悦子さんにお話をうかがうと、望羊蹄の気遣いの気持ちは、創業者のご両親から来ているのではないかと思いました。
望羊蹄の歴史は、小西悦子さんのお父さんである小西新吉さんの親孝行から始まります。
時は太平洋戦争が終わった1945年のこと。小西悦子さんの祖母が病気になり、「知人のいる北海道の洞爺湖で過ごしたい」と言い出したそうです。そこで小西さんご一家は「最後の親孝行」をするため、大阪から北海道の洞爺湖へ移住したのです。
小西新吉さんは、病気の母親が「寂しくないように」と当時珍しかったレコードを大阪で買って持ってきたのですが、これが洞爺湖で喫茶店を開くきっかけになりました。
当時の洞爺湖には、北海道中から結核になった教師を療養させる「北海道教員保養所」があり、自分の生死に不安な人が洞爺湖に集まっていたのです。
明日の手術で生死の不安があった先生たちに頼まれ、物珍しかったレコードを人助けのために聴かせていた小西さん一家。
時間が経つうちに、「せっかくならサロンを開き、みなさんにレコードを聞いてもらおう」と小西さんの母親が発案して「茶房 望羊亭」が開かれました。
時は1946年7月。洞爺湖は名所も少なく、喫茶店もなかったため、療養中の先生から感動されたそうです。
その後も望羊蹄は、お店にやってくる方々のつながりで、徐々に喫茶店からレストランへと変わっていきます。
当時珍しかったコーヒーやハンバーグを出したきっかけもお客さんつながりです。当時は戦後直後の物資不足で、コーヒーどころか、お茶すらありません。
しかし、千歳にGHQの進駐軍がいたつながりで、お店のお客さんだった外国人兵士がある日、MJBというコーヒーを持ってきました。
「ママ、コーヒーの淹れ方を教えるから、コーヒーをお店で出したら?」
外国人兵士の言葉をきっかけに、小西悦子さんのお母さんはコーヒーの淹れ方を習い、その後も、「ママ、食事も出そうよ」ということで、米兵からハンバーグステーキなどの作り方を習って、お店はレストランになっていきました。
望羊蹄のお話を聞くと、小西さんご両親の「親孝行」と「人助け」で始まり、お客さんに助けてもらいながら、少しずつお店が大きくなったという歴史があります。
創業者のご両親が大事にしていた「人への思いやり」を、2代目の小西さんは今も大切に守っています。だから、望羊蹄は思いやりにあふれ、いつの時代もお客さんが集まるのではないかと思いました。
まとめ
望羊蹄は2024年で創業78年になります。
ホームページにある「人に思いやり、味に思いやり」をモットーにいつまでも皆さんの望羊蹄でありたいと願いながら・・・・・・・。」という言葉を体現している望羊蹄。
いろんな人からオススメされるお店ですが、お話を聞くと、創業からの想いと日々の積み重ねの努力で毎日を歩んでこられたすごみを感じました。
何より望羊蹄は、今まで訪れた人の思い出を大事に重ねながら、今日も新しく訪れるお客さんにとっても大事な場所でありたいと思っています。
ぜひ、洞爺湖の素敵な空間で温かい食事を楽しんでみてください。
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